第一章 -2- 救いの手

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 ラキエルはそこで初めて、自分の願いを告げたのだと気づく。気恥ずかしい気分になり、ラキエルはラグナより視線を外した。 「なぁ、オレと一緒に行かないか?」  唐突にラグナが一言呟く。 「どこへ?」 「天使も神もいない場所にさ。あんたはこのままここにいれば、確実に殺される。それは分かるだろ? 生きるためには、ここから逃げないといけない」  確かに、今更ラキエルが反抗したところで、待ち受けるのは死だ。フィーオの思惑が変わらない限り、ラキエルは牢獄から出る事も出来ない。この場所より出るという事はつまり、逃げ出すという事だ。  それは勿論、天への反逆である。  ラグナは杖を持つ手とは逆の手を、柵の隙間より差し出した。男にしてはやけに繊細な手は、窓より一筋伸びた光を受けて白く頼りなげに見える。  差し出された手とラグナを交互に見やり、ラキエルは身体をラグナに向けた。 「オレの手を取って、一緒に脱走するか。それとも大人しく死を待つか」  罪無き罰を受けて死ぬか、罪を重ねて生きるか。  二つの選択肢に善悪の区別は無く、どちらが正しいとは一概に言えない。  この問題児の天使が、どういうつもりでラキエルを助けるのかは分からない。だが、彼の言うとおり、ここでラキエルが選ばなければ、近い未来に待つのは死だ。 「今ここで選べよ」     
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