第一章 -3- 脱走

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第一章 -3- 脱走

 ラグナの手をとって立ち上がり、ラキエルは天井を仰いだ。  壁の高い位置に取り付けられた小さな窓から、陽の光が差し込んでいる。窓には牢を囲う柵と同じものが取り付けられていて、とてもそこからの脱出は叶いそうにない。がらりとした鉄の檻の出口は、分厚い錠がかけられていた。身一つで放り込まれたラキエルに、それを外す術はない。  脱出といってもどうすれば良いのか、ラキエルには見当も付かない。  隣の牢にいるラグナに視線を向けると、彼は口元に手を当てて、何か考え込んでいるようだった。 「どうやって出るんだ?」  ラグナは眉間に皺を寄せて小さく唸ってから、目線を上げた。 「いや、出るのは簡単なんだけどな」  ラグナは手に持っていた十字を象った杖を肩にかけて、両手の指を複雑に絡ませて呪を呼ぶ印を切る。印を切った指先に微かな光が零れたかと思うと、ラグナの身体が淡く霞む。するとラグナの姿が柔らかな光にほどけるようにして消えた。  まるで、最初からそこには何も存在していなかったように。  ラキエルが瞬きをする間もなく、次の瞬間ラグナは音も無く牢の外側へ移動していた。 「まあ、こんな感じでな」     
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