第一章 -3- 脱走

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 ラキエルは自分なりに、感情的にならないようにと努めてきたつもりだ。感情的になるのは心の未熟さ故と己を叱咤し、余計な事を口走らぬようにと極力声を押し殺してきた。  だが、ラグナにはラキエルの行動がお見通しのようだ。ラグナが何か特殊な力を使ったのかと思ったが、そうでもないらしい。ラグナは何か術を使う時、呪文を唱えるか指で呪印を描いている。それは魔術を使うために必要な事項であり、それを欠かしての魔術発動は特殊な例を除いてありえない。世の中には心を覗き見る術もあるらしいが、酷く高度な術であり、長い詠唱を必要とされている。月の女神の寵愛を得ているラグナといえども、かんたんに扱えるものではないだろう。 「ああ、典型的な直情径行だな。思ってる事がすぐに顔に出る」 「……おまえは分かり難い」  ラキエルが不満げに呟くと、ラグナは満足そうに笑った。  ラグナの笑顔は楽しそうだが、どこか馬鹿にしているようにも見える。その表情だけでは、何を思っているのか分からない。口数が多くお喋りなラグナは、見かけに反して感情を曝け出さない。ラキエルよりもずっと。笑顔を表面に貼り付けて、その下に隠れている思惑を欠片も外へ出さないのだ。     
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