第一章 -3- 脱走

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 そう言えば、ラグナに関しての噂で、彼がよく嘘を吐くというのも有名だ。誰かを騙しては喜んで、腹を抱えて笑う愉快犯だと聞いた事がある。ふと思い起こし、ラキエルの脳裏に悪夢めいた予想が浮かぶ。  押し黙りラグナを見つめるラキエルの様子に、やはりラグナは笑うだけだった。 「安心しろって。オレはあんたをからかうためにここにいるんじゃない。それだけは本当だ」 「おまえの言葉は嘘くさい。……でも信じるよ。どの道、おまえがいなければ、ここから出る事も出来ないみたいだからな」  一人だけでは牢から出る事も叶わない今、頼みの綱は目の前で笑っている問題児だけだ。彼の魔術無しに、牢獄からの脱出は不可能に近い。  ラキエルは魔術が得意でなかった。  まだ若いせいというのも多少はあるが、基礎魔術の多くは習っている。けれどそれを思い通りに使いこなすまで至らないのだ。真面目に勉学に励んではきたが、努力だけではどうにもならない事もあるのだ。実際、語学や古代語、武術や歴史、精神学や哲学などの方面は優等生を演じてきたが、魔術と法力だけは落第寸前の成績しか残せていない。  それに比べ、ラグナはどうだろう。真面目に講義に出た事など無いだろうに、彼はいともかんたんに高度とされている移動魔術を使ってみせた。彼が神殿を預かる責任者ディエルをことごとく出し抜いてきたのも、運だけではないはずだ。     
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