序章

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 天使は落胆の色を隠しきれていないラフィーナを見て、つまらなそうに顔を顰める。  瓦礫の上より舞い降りて、天使はラフィーナの元まで歩いてきた。 「女、そなたの望みとは何だ?」  天使は手に持つ細長く白い杖を、ラフィーナの首元へとあてがった。ラフィーナは青と白の宝玉が埋め込まれた杖の先端を向けられ、驚きに顔を上げる。 「わたくしの望みは……」  気丈な立ち振る舞いをしていたラフィーナの表情が、微かに戸惑いの色を浮かべた。望みを告げる事に躊躇っているのか、紅の唇は微かに震えている。それでも黒曜石の瞳に宿る光は強く、天使を威嚇する力は失っていない。 「今この場で、そなたの言葉を聞く人間はおらぬ。望みを言うがいい」  甘く囁くような猫なで声で、天使はラフィーナの望みを聞き出そうとする。ラフィーナは男の策略に掛かり、答えようと唇を開く。けれど何かに引き止められるように我に返り、再び唇を一文字に閉じる。  静寂が辺りを支配し、北方より流れる風が絶えず二人の間を吹き抜けた。  ラフィーナは躊躇いを捨てるように軽く頭を振り、観念したように形の良い唇を開いた。     
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