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か細く呟いて、娘はまた一筋涙を零した。
水晶のように澄んだ雫は、闇に溶けて。
娘の姿は闇の霧に包まれて消えた。
「……エル」
一瞬のうちに闇が霧散して、視界が開けた。
黒の残り香を振り払おうとまばたきを繰り返すと、薄暗い部屋の石壁が目に映る。
「おい、ラキエル」
ぼやける意識を懸命に取り戻して、名を呼ぶ方へ目を向ける。
ひどく身体が重く、思うとおりに動けない。声は背後から聞こえているのに、身体を後ろに向ける事が出来なかった。
「重い」
「あ? もう一回言ってみろ。ぶっ飛ばすぞ」
振り降りてきた言葉を聞き、ラキエルははっとして身体を起こそうとした。けれど何か重量のあるものが背に乗りかかっているようで、立ち上がれずに勢い余って石の床に顎を打ち付ける。呻き声を押し殺し、ラキエルは顎を手で押さえた。
「お目覚めか、ラキエル」
うつ伏せのラキエルの上に乗っているらしい誰かが、悠々とした声音で問いかける。
同時に、背中に感じていた重みがさっと退いた。身体が解放されて、ラキエルは深く溜息を吐いた。
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