第一章 -3- 脱走

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 己が気付かぬうちに、浅い眠りの世界に旅立っていたようだ。陽が傾き、赤みを帯びた陽光が牢を照らしていた頃までは記憶があった。だが、その後うつらうつらしているうちに意識を手放してしまったようだ。  頭がぼんやりとしていて、黒と白の粒子が広がるような眩暈が目前を過ぎる。  一度瞳を深く閉じて、再び目を開けた。  自由になった身体を起こすと、すぐそばでラグナが立っていた。  牢の中は一段と暗く、窓より一筋の光も入り込んでいない。それでも視界に不自由が無いのは、ラグナの杖の先端に淡い光が灯っていたからだろう。 「……もっとましな起こし方は無いのか」  微かに痛む背骨をさすり、ラキエルは飄々としているラグナを睨みつけた。眠ってしまったラキエルも悪いが、このような起こし方はいただけない。 「爽やかな目覚めをご希望なら、オレより先に寝ない事だな」  悪戯っぽい笑みを浮かべて、ラグナはご機嫌な様子で言う。  ラキエルはもう一度、盛大な溜息を吐いた。 「さて、ラキエル。あんまりゆっくりしてる暇は無いみたいだぜ? 何でか知らねぇけど、じじぃがオレまで探し始めやがった。面倒な事にならないうちに、さっさと神殿から出るぞ」  急に真面目な面持ちで、ラグナが切り出す。     
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