第一章 -3- 脱走

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 脱出劇を開始すると言っているが、ラグナが武器らしいものを手に持っている様子は無い。昼間と同じ、黒く染め上げた細身で裾の長い法衣に、十字を象った杖一本だけ。頭には防寒具としても防具としてもまるで役に立たないであろう、風変わりな帽子。身長を誤魔化すためと思われる厚底のブーツは、走る事に向いているとは思えない。  あからさまな軽装のラグナをまじまじと見つめていると、ラグナは軽く鼻で笑った。 「一つだけ言っておこうか。オレは非戦闘要員だ」 「……は?」  自信満々に告げられた言葉に、ラキエルは呆気に取られる。 「だから、オレは戦えねぇの。分かる? もし見つかって剣先突きつけられても、オレは何も出来ない」  さも当然といわんばかりに、ラグナは強気な態度のまま豪語する。その勢いに飲まれかけながら、ラキエルはおずおずと問い返す。 「おまえは魔術を使えるんじゃないのか?」  先程、様々な魔術を披露したラグナだ。今更「魔術が使えない」などの嘘を吐くのは不可能である。けれど至って真面目な面持ちのラグナは、短く一言だけを返した。 「オレの力は暴力沙汰には向かねぇんだ」  無邪気な笑顔をラキエルに向けて、ラグナはラキエルの肩に手を置いた。 「つー訳で、あんたはオレを護衛しろ。道案内と応援だけはしてやるから」     
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