第一章 -3- 脱走

12/22
前へ
/314ページ
次へ
 人に物を頼む態度とは思えない高慢な言葉に、ラキエルは言葉を詰まらせた。この男は一体何なのだろうか。罪人であるラキエルに脱出を持ちかけたり、高度な魔術を操るかと思えば、戦えないだの護衛しろだの。今一、ラキエルにはラグナの真意が読めない。  それに、護衛しろといわれてもラキエルには先立つものが無い。武器らしい武器など持ってはいないし、体術に自信があるわけでもない。魔術も得意でないとくれば、戦闘能力はラグナと大して変わらない。 「武器も無しに行くって言うのか?」  てっきりラグナが昼間のうちに脱出のための道具や武器を用意しているものだと思っていた。だが、細身の法衣に武器を隠しているとは思えないし、鞄も袋も見当たらない。つまり、文字通り身一つの状況だ。  表情を曇らせるラキエルに対して、ラグナはけろりとした様子で答えた。 「まさか。あんたがやられたらオレにも被害が及ぶ。武器は考えてあるさ。ただ、とても持ち出せそうに無かったからな、これから拝借しに行こうと思ってる」 「演習用の剣か?」 「いや、そんなんじゃ心もとないだろ。あんたさ、確か剣術の成績は悪く無かったよな?」  唐突に問われて、ラキエルは一度考える。  武芸の科目の中では、ラキエルは剣術が一番得意だ。他に弓や槍などの武術科目が小分けしてあるが、そのどれよりも剣術の成績が高い。特別秀でているとまではいかないが、神殿の中ではそれなりの使い手だと評価されている。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加