第一章 -3- 脱走

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「……ああ。でも剣をどこで手に入れるんだ?」  武芸の実技演習の時には、飾り気も無ければ殺傷能力も低い質素な鉄製の剣を使う。それは神殿の武芸の間の倉庫に収められていて、必要時以外はディエルが鍵をかけてしまっている。神殿にある武器といえば、演習用のそれらだけだ。  演習用の剣でさえ手に入れるのが難しいというのに、それ以外のものをどこで調達するのか、ラキエルには見当もつかない。だがラグナは不適な笑みを浮かべて、大丈夫だと答えた。 「まぁ、説明するよりも目で見た方が早い。それに、あんま時間も無いからな。行こうぜ?」  余裕たっぷりの態度にやや呆れつつ、ラキエルは静かに頷いた。 「まずは祈りの間に移動する。それから武器を取って、一気に時空の門まで行く。良いか?」  時空の門とは天界から地上界へ降りるための唯一の扉だ。神殿より出て西に行った場所に門は存在する。多少の警備はあるだろうが、前に見学した時はそれほど厳重な警備ではなかった。門より出てしまえば、警備の者も追っては来ないだろう。天界より地上に行くのは、たとえ緊急事態であろうとも御法度なのだ。  許可無く門より出て行くのは、天への反逆でしかない。  今度こそ本当に、罪を犯すのだ。     
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