第一章 -3- 脱走

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 けれどもう、後戻りは出来ない。戻っても死が待つだけだ。  微かな罪悪感が心を刺した。だがラキエルは深く頷いて、ラグナを見据える。もうやめる気は無いと、無言のままラキエルは答えた。  ラグナはラキエルの意を汲み取り、こくりと頷き返す。 「じゃ、行くぜ? 移動はあんまり良い気分はしないが、我慢しろ」  ラグナはラキエルに向き直り、二人の間で印を結ぶ。小さく何かを呟くと、杖の先端に灯っていた光が消えた。暗闇の中で月のような琥珀色の瞳が浮かび、金色の光を帯びる。ゆっくりと瞼を閉じて、ラグナは一言呪を紡ぎ、慣れた手つきで印を切った。  次の瞬間、暗闇の牢獄に静寂が戻る。  雲の合間より出てきた月が、小さな窓より光を差し伸べたが、鉄の折の中には誰も照らし出されない。無人となった折は閑散としていて、不気味なまでに静かであった。  誰もいなくなった牢獄に、透明な雫が一滴零れ落ちた。  石の床に弾けて、雫は光の粒子に姿を変え、一瞬のうちに儚く消えた。
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