第一章 -3- 脱走

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 身体がとゆらゆらと不規則に揺れている気がした。  蜘蛛の糸のように粘着質な空気が全身に纏わりつき、うまく呼吸が出来ず酷く息苦しい。瞳を開けても閉じても暗い闇ばかり。胃液が逆流する感覚に吐き気を催し、口元を抑えた。  だがそれはすぐに過ぎ去り、代わりに天地がひっくり返ったような衝撃が頭から足まで走り抜けた。同時に暗く濃い闇は消えて、見覚えのある光景が広がる。  丸い部屋だった。高い天井には繊細な紋様が彫られ、複雑な幾何学模様を刻んだ太い柱が降りている。高い壁の場所には色取り取りのステンドグラスが張り巡らされていた。大理石の床は黒く神秘的な雰囲気を醸し出す。奥には、太陽神をモチーフにした雄々しくも優しげな男の石像が、静かにラキエルを見下ろしていた。  ラキエルの良く知る、祈りの間だ。 「移動成功。流石に二人まとめて長距離移動はしんどいわ」  ラグナが身体を伸ばしながら部屋を見回す。 「ここからどこに行く?」 「ん? ああ。まずはそれを頂戴する」  ラグナはすらりとした人差し指を石像の方に向けた。指先が示すそちらに視線を向けると、そこには太陽神の石像が存在している。     
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