第一章 -3- 脱走

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 滑らかな白い石を切り取って彫られた石像は美しく、堂々たる風格を持ち合わせていた。 「……石像を?」  ありがたい太陽神の像とはいえ、今頂戴してもお荷物にしかならない。困惑するラキエルを一瞥し、ラグナは指先をもう少し高い位置へ移動させた。 「いや、あんなのいらねぇよ。石像の上だよ」  言われて像より少し高い場所を仰ぐと、純白の壁に一振りの剣が飾られていた。  片手で扱うにはいささか重そうな、刃の長い長剣だ。落ち着いた色合いの金の柄には細やかな浮き彫りがなされている。深い色合いの青玉の埋め込まれた鍔。鞘に収められているので刃を見ることは出来なかったが、素晴らしく美しい剣であった。  それは、太陽神より天使に贈られたものだという。 「……まさかあれを盗る気じゃないだろうな?」  神殿の中でもっとも貴重で大切なものを、盗むという気だろうか。  いくらラグナであろうとも、そればかりは良心が留めてくれると信じて、黒衣の天使を見つめる。だがラグナは冷めた視線で剣を眺め、短く「そうだ」と答えた。  ラグナの反応に、ラキエルはがくりと肩を落とす。 「ディエル様が決して触れるなと言っていたはずだ。他のものを探そう」  そそくさと祈りの間を出ようとするラキエルの服を引っ張り、ラグナは剣を指差す。     
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