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その声を聞き、ラキエルは我が耳を疑った。恐らく空耳などではないそれは、ラキエルにとってもっとも聞き馴染んだ声だ。そして先程まで薄れていた後ろめたさが心に溢れる。
現実から目を背けたたいと思いつつ、恐る恐る顔を上げて声のした方を見やった。
部屋の入り口に、土煙の隙間から数人の天使の姿がちらついていた。
「天使様のくせに、祈りの間を破壊するのかよ」
白い光を振り払い、ラグナが片手に剣を片手に杖を持ったまま、どこか刺々しい口調で叫んだ。ラキエルがラグナを仰ぐと、彼は傷一つ負っておらず、三枚の翼でしっかりと空に浮かんでいる。だが、ラグナの背後や周辺は酷く損なわれていた。ステンドグラスは砕け、白い壁は原型をとどめないほどに崩れている。全く容赦の無い攻撃に、ラキエルは絶句した。
「そなたを牢へぶち込むためならば、多少の犠牲も厭わん」
爆風により舞い上がっていた塵煙がおさまり、祈りの間の入り口に立つ人物がはっきりと窺えた。長く鋭い槍を構えた数人の天使が後ろに控え、手前には純白の法衣を纏った天使が堂々と立っている。見間違えるはずも無い老天使ディエルが、静かにラグナを見つめていた。
「ご苦労な事だな。だけどオレはもう二度と牢に入る気はないんでね。あんた達のくだらないお遊びに付き合ってる暇は無いんだ」
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