第一章 -3- 脱走

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 侮蔑を孕んだような声色で、突き放すようにラグナは言う。その表情に笑顔こそ存在しているが、どこか冷たい笑顔であった。 「……だからラキエルと共に脱走すると言う訳か。だが、そなた達を逃がすわけにはいかぬのだ。諦めよ」 「オレを出し抜ける自信があるんだったら、やってみろよ」  にやりと微笑んで、ラグナは壁から取った剣をラキエルに放り投げた。  急に投げつけられた剣を慌てて受け取り、ラキエルはラグナとディエルを交互に見やる。一触即発といった二人の様子に、どうする事もできずにただ押し黙る。 「ラキエル……、何故この愚か者の手を取った?」  視線はラグナに向けたまま、ディエルはラキエルに問いかけた。  ラキエルは手にした剣に視線を落とす。何と応えてよいのか分からず、ディエルの目を見ないようにと勤めた。 「ラキエル、じじぃの戯言なんか聞くな。……くそじじぃ、何でもかんでも思い通りになると思ったら大間違いだ。どんな優等生でも、一歩道を踏み外せば変わるもんさ。こいつはもう、あんたに従順な天使じゃない」 「そなたには聞いておらん。ラキエル、応えよ」  ディエルの声がまるで、責めているように聞こえ、ラキエルは瞳を伏せた。     
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