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逆らうつもりなど無かったはずだったのに。どうしてかラグナの手を取ってしまった。柵の合間より差し伸べられたその手を、振り払う事もできたはずであったのに。罪悪感も存在していた。けれど結局、ラキエルはディエルに背いてしまった。決してラグナが強要したわけではない。ただ、ラキエルがそう願ったのだ。
「……俺が生を望んだから。だから、ラグナが手を差し伸べてくれた」
今までディエルの存在はラキエルの心の支えであった。けれど最後の最後で、ディエルはラキエルを救ってはくれなかった。見ず知らずのラグナだけが、ラキエルに生きるための道を示してくれた。その手に縋ってしまったのは、ラキエルの心の弱さ故なのかもしれない。けれど、今更後戻りはできないのだ。
「お許し下さい。……俺は、生きます」
ゆっくりと立ち上がって、ラキエルは剣を鞘から抜いた。白銀の刀身が姿を現して、その鏡の如き刃に映った己の瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。
剣の柄はぴたりと手に吸い付き、その巨大な刃に似合わず不思議なほど軽かった。使い心地を確かめるように一振りして、ラキエルは剣を構えた。
「ラキエル……、そなたは天を裏切ってはならぬ」
「しつこいぞ、じじぃ。諦めるのはあんただ」
ラグナが鋭く一喝して、ラキエルの傍に降り立つ。
ディエルは悲しげに瞳を伏せて、俯いた。誰にも聞き取れぬほど小さな声で何かを呟き、ディエルは胸に手を当てた。
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