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『――貴方たちが傷つくかと思って……見ていられなかった』
透き通るほどに美しい声が、ラキエルとラグナの耳元で響いた。
空気を伝わり鼓膜に届いたというよりは、耳元で囁きかけられたような気がする。脳に直接響いたのかと錯覚するほど、不思議な声であった。
そしてそれは、先程ラキエルの耳元に届いたものと同じ声でもあった。
ラグナが魔術で呼び出した光を高い位置に移動させると、闇に隠れていた存在が照らし出される。
闇より出てきたのは、小さな娘だった。
光を受けて輝く淡い金糸の髪は、緩やかなウェーブを描いて腰に届くほど長い。色を持たないかのように白く滑らかな肌。細い肢体を薄い絹のドレスで包み、ひらひらと層を重ねて広がる裾が薔薇の花を連想させる。幼いながらに、はっと息を呑むほど整った容貌を持つ、可憐な娘であった。
娘は悲しげに瞳を閉じたまま、俯いていた。胸の前で手と手を結び、祈るように黒い床に座り込んでいる。
『ごめんなさい……』
消え入りそうなほど小さな声で囁いて、娘は瞼を開いた。
大きな目に埋め込まれた曇り硝子のような瞳が、ラグナとラキエルを通り越して遥か闇の彼方を見つめる。
娘の瞳を見止め、ラキエルは僅かに動揺した。
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