第一章 -4- 自由の翼

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 ラキエルは己の瞳の色が一般的に無いものだと熟知している。多少珍しい色合いはあるけれど、紅い瞳だけはこの世に存在しないはずのものだった。紅の色彩はラキエルともう一人、罪を犯した堕天使だけが持つもの。  しかし、誰とも違う瞳を持つラキエルでさえ、娘の瞳に驚きを隠せなかった。  娘の瞳には色が無かった。  透き通る白銀の瞳は、焦点の合わないまま虚空をだけを映し出す。  淡く消え入りそうなほど色素の薄い娘は、虚ろな瞳を細めて微笑んだ。 『貴方たちの邪魔をするつもりはありません』  知らない娘であるのに、どこかで知っている気がする。  ラキエルが娘に何かを問いかけようとしたが、それよりも先にラグナが一歩娘へと近づいた。 「そりゃありがたいね。……でも、あんたがオレを庇ったってばれたら、またあんたの立場が危うくなるだけだぜ?」  どうやらラグナはこの娘を知っているらしい。  けれど友好的とは言い難く、どこか突き放したような言葉を返す。  娘はラグナの言葉に小さく微笑んで、緩く首を振った。 『わたくしは良いのです。貴方が無事なら、それで良いの』 「あんたが良くてもオレは良くない、サリエル」  冷ややかとすら思える声音で言い返し、ラグナは娘を見下ろす。  けれど娘はすぐに応えず、暗闇の中に再び静やかな空気が流れた。     
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