第一章 -4- 自由の翼

4/19
前へ
/314ページ
次へ
 気まずい沈黙にどうして良いか分からず、ラキエルはただ二人のやり取りを見守る。たじろぐラキエルを横に、静寂の終止符を打ったのは、娘であった。 『ごめんなさい。貴方はそういう人だものね……』  蚊の泣くような声で呟き、娘は顔を伏せた。額に掛かっていた金の髪が一束頬に滑り落ちる。  ラグナは短く溜息を吐いて、娘から視線を外した。  二人のやり取りの意味が分からず、ラキエルはただ二人を見つめる。そして先程ラグナが呼んだ名に聞き覚えがある事に気付く。 「サリエル……様?」  恐る恐るラキエルが娘の名を呼ぶと、娘はゆっくりを顔を上げてラキエルの方を見やった。白銀の瞳はやはり虚空を彷徨っているが、確かにサリエルはラキエルを見つめている。  サリエルは優しい微笑みを浮かべ、唇を動かさぬまま静かに声を紡ぎだした。 『貴方の事も知っています。紅き呪いを受けしラキエル。わたくしは月の娘サリエル。こうして話すのは初めてですね』  天界には一人だけ、女神が存在する。  太古の神々の血を引き、唯一この世界で眠りについていない神。どういう経緯かは知らないが、女神はラグナという問題児に恩寵を与えた。記憶に間違いが無ければ、その女神の名がサリエルであった。月の女神、サリエル。すでに象徴としてしか知られていない神の眷属である、至高の存在だ。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加