第一章 -4- 自由の翼

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『罪無き罰を負わねばならぬ理由など、貴方には無かった。それに、貴方やラグナを自由にしてあげたかったの。差し出がましい事をしてしまってごめんなさい』  邪気も悪気も感じられない言葉で、サリエルは応える。  サリエルは柔らかい微笑みこそ常に浮かべているが、何故か無理をしているように見えた。可憐で優しげな笑顔は、作り物めいている。無理矢理表情を明るくして、内に眠る心を押し殺しているようだ。  ラグナを見やると彼は冷めた表情を顔に貼り付けて、サリエルに背を向けている。ラグナの女神に対する態度の冷たさに少しばかり驚いたが、二人の間柄がどういったものか知らないラキエルに意見する権利は無い。 「『自由にする』とはよく言うな。オレを縛り付けたのは、あんたの恩寵とやらだってのに」  喉の奥でくつくつと笑い、ラグナは琥珀色の瞳で女神を見下した。  サリエルは怯えたように肩を震わせたが、何かを言い返す事は無かった。ただ沈黙だけがラグナの言の葉を肯定している。 「……ラグナ、言い過ぎじゃないのか?」  細い柳眉を寄せて沈むサリエルの様子に哀れみを感じ、ラキエルはラグナを咎めた。     
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