第一章 -4- 自由の翼

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 取り残される寂しさに、ただ涙を零すことしかできなかった非力な少女。離れていく手に縋り、いかないでと訴えていた。あの闇の中にいた娘とサリエルが重なって見えて、ラキエルは問いかける。  しかしサリエルは微笑んだまま首を振った。 『わたくしはどこにも行けないの……。わたくしには構わず、お行きなさい』 「だそうだぜ? 行くぞ、ラキエル」  女神の言葉に合わせて、ラグナがラキエルを杖で小突く。  ラキエルはラグナを睨みつけたが、彼は全く動じず、余裕の笑みすら浮かべている。今更だがラグナには何を言っても無駄だと思い、申し訳ないとばかりに女神に頭を垂れた。 『ラキエル、ラグナを頼みます。わたくしはこの子の未来を縛ってしまった……。だからせめて、この子を自由に……天使も神もいない世界に、連れて行って欲しいの』  小さく震える声が、それをラキエルに伝える。  今までよりも遥かに消え入りそうな声。  ラグナを見やると、彼は眠たげに大きな欠伸をしていた。どうやら、今のサリエルの言葉は届いていないらしい。  サリエルが何故ラキエルを助けたのか、分かった気がした。     
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