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ラグナはラキエルを救ったが、罪人を庇いながら逃げるほどの力を持っていない。だからラキエルは、ラグナを護りながら天界より逃げなくてはいけなかった。しかし、よくよく考えてみれば、ラグナが逃げる必要など無かったはずだ。ラキエルを逃がすだけで留まれば、彼は今までどおりの生活を続けられたはず。それなのにラグナは危険を承知でラキエルと共に逃走を図った。つまり、ラグナも天界から出る事を望んでいたのだ。
それをサリエルが知っていたのか定かではない。けれど、サリエルはラグナの意志を何よりも尊重している。彼の望みを叶える為に、ラキエルの助力が必要だというのだろう。
だからこそ、危険を冒してまでサリエルはラキエルを救った。この事が明るみに出れば、サリエルといえども、咎められないはずが無いというのに。
ラキエルはサリエルの白銀の瞳を覗き込み、静かに頷いた。
「……はい。必ず」
サリエルはラキエルの言葉に安心したように微笑み、そっと細い両手を持ち上げた。
『門のそばまで送りましょう』
「いい。自分で行ける」
サリエルの申し出を断るラグナに、サリエルは零れんばかりに愛らしく微笑みかけた。
『これで最後だから。少しだけわたくしに御節介をさせて』
痛々しいほど健気に、サリエルはラグナを気遣う。
そんなサリエルの態度に言い返せなくなったのか、ラグナはそっぽを向いて「好きにしろ」と呟いた。
サリエルは嬉しそうな表情を浮かべて、今まで一度も開かなかった唇を開いた。
「ありがとう、ラグナ」
高く澄んだ声が、優しい響きを纏い闇に木霊する。
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