第一章 -4- 自由の翼

10/19
前へ
/314ページ
次へ
 サリエルがそっと腕を振るうと、暗闇に光が零れた。金色の光が闇を進み、ラキエルとラグナを取り囲む。光は細い糸となり、絡み合いながら二人を優しく包み込んだ。  ふわりと身体が浮き上がり、二人を縛る重力が消えていく。 「じゃあな、サリエル」  最後に一度だけラグナがサリエルを振り返り、明るい笑顔を向けた。今までの刺々しい雰囲気の無い、ラグナ本来の明朗とした表情を見つめながら、サリエルは口元を緩めた。 『ええ、さようなら――……』  次第に光が強くなり、ラキエルとラグナは月色の光に飲まれて消えた。  再び、サリエルは暗い闇の世界に取り残される。  少し前までと同じ静寂の中、女神は白く滑らかな頬に透明な雫を零した。  心に存在する感情はただ一つだけ。  別れ行く者への名残惜しさ。  しかし、それを言葉には出来なかった。  引き止める事も出来ただろう。サリエルが望んだなら、ラグナは思い留まったかもしれない。けれどこれ以上、彼を縛るわけにはいかなかった。  たった今まであった喧騒は黒に吸収されてしまったようで、物音一つしない閑寂とした空間が広がる。サリエルは頬を滑る涙をそっと拭い、暗い天上を見上げた。 「大地に眠りし我が母よ、どうかあの子達を御守り下さい。わたくしの声が届くのならば、彼らの背に自由の翼を与え給え」     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加