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小さな囁きは歌うような響きを持って、わびしい余韻を残して消えた。
サリエルは闇に佇み、何も映さない白銀の瞳をそっと閉じる。
閉じても開いても、サリエルの瞳に存在するのは果て無き闇だけ。彼女の色は琥珀の輝きを持ったまま彼の瞳に。そして彼の明るい鳶色の瞳は遥か昔、裁きの炎に焼かれた。戻らぬ過去を振り返り、サリエルは闇の中で懺悔をする。
彼を縛り付けてしまった己を呪い、今はただ彼の自由を望んだ。
サリエルの寂しさは消えない。
けれどその代償に、彼は解き放たれる。だから――。
『さようなら、ラグナ』
置いていかれる悲しみを押し殺し、サリエルは呟いた。
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