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弓に矢を番えた数人が標的を定め、弦を引く。
「ほら、ラキエル。逃げるぞ! 門はすぐそばだ」
先に門まで辿り着ければ、ラキエル達は逃げ切れる。
「ああ」
ラグナの言葉に従い、ラキエルは身を翻して勢い良く走り出す。
だが、ラグナが追ってくる音が聞こえない。
不審に思い振り返ろうとするラキエルの前に、白銀の羽根がひらりと舞い落ちた。
「なぁ、ラキエル。あんた正真正銘の馬鹿だろう?」
精一杯足を動かして走るラキエルの頭上で、ラグナが呟いた。
顔だけ上を仰ぐと、ラグナは三枚の翼を悠々と広げて飛んでいた。ぐんぐんとラキエルを追い越し、呆れたような視線を投げる。
ラグナが何を言いたいのか理解して、ラキエルは穴があったら飛び込みたい気分に陥った。翼で追ってくる相手に、走って逃げる天使などいないだろう。
慌ててラキエルは背にしまいこんでいた翼を具現化させた。ラグナとは違う、左右対称の一対の翼を広げる。
走る勢いを削がぬまま、橋から飛び立つ。
今までラキエルが走っていた場所に、数本の矢が放たれた。手加減を感じられない無慈悲な刃にぞっとしながら、少しでも差をつけようと空気を裂いて下降気味に加速する。
「門は?」
「安心しろ。ほら、あれだ」
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