第一章 -5- 堕天

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 けれどどんなに目を凝らそうとも、辺りは暗い闇に包まれている。自然に目線が遥かなる空へと移り、静かな光を探したが、琥珀色の輝きはどこにもなかった。雲の背後へ隠れたのかとも思ったが、それらしき影も無い。  月が、空から消えていた。  光を失った空はただ暗く、全てを隠してしまったようだ。しかし、光の無い世界から追っ手が消えたなどという好都合な展開にはなってくれないらしい。背後より何かを叫ぶ声が聞こえ、同時に我武者羅に矢が放たれる。素早く身を翻し、ラキエルは気配と風の動きで矢をかわす。だが、暗闇の中ではラグナの所在も、時空の扉の正確な位置も掴めない。どうするべきかと考えるラキエルの手を、誰かが取った。 「馬鹿、何止まってんだよ!」  力任せに腕を引かれ、ラキエルは慌てて翼を動かした。引っ張られる方向へ飛ぶ速度を速めると、きつく掴まれていた手の力が緩まる。その手がラグナのものであると判断し、ラキエルは心の奥で安堵した。 「ラグナ、月が……お前がやったのか?」 「まさか。あいつのおせっかいさ。次に会ったら説教するぞ」 「これはサリエル様の力なのか?」  月の女神サリエル。ラグナに恩寵を与えた、神々の娘。彼女は、天空の月の光すら消してしまえるのだろうか。不思議に思うラキエルを一瞥し、ラグナは琥珀色の瞳を細めた。 「他に誰がいるんだよ。……本当、自分の立場わかってんのか、あいつ」     
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