出(殴り)会い

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 異なる世界の二人が、風吹く荒野にて対峙する。  見渡す限りでは、彼ら以外は誰もいない。植物以外の生物すら見えず、ただ寂寞と広がるのみだ。その広がりを、びゅうびゅうと、風の音がどこまでも追いかけていく。  経緯は分からない。これほど見晴らしの良い荒野で、人がたまたま出会うというようなことも、在りうるわけがない。  だが、そもそも、それが主題なのではない。重要なのは、異なる世界の彼らがどう意思を疎通し、そして何を残したのか、なのだから。    世界に残す爪痕こそが、何よりも重要なのだ。 「――では、行きますよ。カリルさん」  対峙する二人のうち、小柄なほう――風太は、特に気負う様子もなく、目の前の相手に声をかけた。  年齢は10代の半ば頃だろうか。青系統でまとめられた、民族風のいでたちだ。生地が厚めではあるが、動きやすさを重視したデザインとなっている。つややかな黒髪で、長髪を頭の後ろで纏め上げていた。荒野の風が通り過ぎる度、束ねた黒髪が踊る。  右手に提げているのは、鞘に収まった長刀だ。自身の身長ほども長く、加えて、このサイズの刀の標準を越えるほど、柄が長い。特別な理由があるのかどうかは分からないが。 「いいぜ。いつでもどうぞ」  もうひとり、長身の男――カリルが、事もなげに応じる。  こちらは、風太とは対照的にジャケットとパンツといった、現代的ないでたちだ。オレンジと茶色系統でまとめられた服に身を包んでいる。身長は風太よりも頭二つは高いが、相対的なものでしかなく、彼が特別に高身長というわけではない。  外ハネの髪型が特徴的ではあるが、それよりももっと中央――皮肉っぽい笑顔と三白眼が目を引く。手には何も持っていない。ただ挑発するように、左手のひらを上に向けて手招きをしているだけだ。  カリルの手招きに反応したわけではないだろうが、風太が動いた。やや腰を落とし、上半身を捻りつつ、腰溜めに刀を持って、柄に利き手を添える。いわゆる、抜刀の構えというものだ。先ほどまで年相応に幼く見えていた顔だったが、今は見た目の年齢を錯誤させるほどに、真剣な表情で相手を見据えていた。  こちらは、その構えを見て反応したのだろう。カリルの方も腰を低く落とし、半身を引いて身体の側面を相手に向けた構えを取る。先ほどまで浮かべていた笑みはどこへやら、うって変わって真剣な表情だ。
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