出(殴り)会い

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 だが、今の動きは―― (繋がっているべき線が、過程が…見えなかった。なんて速さだ)  胸中で相手の技能を賞賛しながら、空中で身体を反転させた。そのまま地面に着地して、勢いで滑る身体を押さえ込む。視界を塞ぐように、地面との摩擦で生まれた土煙を、風がすぐに打ち払う。  晴れた視界で見えたものは、ゆっくりとした足取りで歩いてくる風太の姿だ。 「流石ですね――僕の力ではここまで飛ばせない。咄嗟に自ら跳ぶなんて」  風太はそう言って、先程と同じくらいの相対距離を取り、立ち止まった。  頬を伝う汗を拭いながら、カリルは立ち上がる。自分が既に、相手の狩場に入っていることは理解しているが、相手に笑みを返す余裕を見せた。そのまま、続ける、 「なるほど――。“風”太、ね。名は体を表すとはよく言ったもんだ」  カリルの言葉に、風太はただ笑みを浮かべているだけだ。  疾風、轟風、暴風、旋風、竜巻など――よく使用される例として、風にまつわる喩えはいくつもあるが、そのどれも当てはまらないように、カリルは感じた。  疾風ほど鋭く通り過ぎはしない。正面からぶつかって来る正直な剣だ。  轟風、暴風、旋風、竜巻なら、目に見える脅威に備え、回避することが可能だ。 だが風太のそれは―― (穏やかにたゆたう風が、何の前触れもなく、暴威でもって襲い掛かる。まるで――そう、  “突風”だ)  納得の喩えを導き出せたことに満足しながら、認める。この技は、見てからでは絶対に避けられない。  だが―― 「ひとつ、聞きいていいか?」  前置きして、カリルは続けた。相手を睨みつけながら、 「なぜ、抜かなかった?」 カリルの問いに、きょとんとする風太。 「抜けば、今ので終わっていたはずだ」 カリルのその言葉に、風太は困ったように頬を掻いてから、 「丸腰の方相手には抜けません。当たり前のことでしょう?」 「てめぇ――舐めてんのか? 次は抜けよ。手加減だけは許さねぇ」  怒気をはらんだ声でそう告げると、カリルは、先ほどよりも大きく体を開き、拳を前に突き出す構えを取った。  相手の怒気に気圧される形で、風太は一歩後退る。無意識のうちに、抜刀の構えを取っていた。
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