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ここまで誰一人ともすれ違わないので、気が緩んできたようだ。
「怪物に出会いませんように」
クスリと笑う。
・・・数刻後、怪物ならぬ怪人に出会う事を、僕はまだ知らない。
歩きながら西村の言葉、その続きを思い出していた。
「殺人事件ってあるだろう?文字どうり人が死ぬ事件。件の探偵はその逆。いやいや探偵が殺しにくるんじゃないって。人を生かす、事件。すなわち活人事件を解決する・・・」
やけに芝居がかって続けたのは
「人呼んで活人探偵。活人探偵お礼参り!! ・・・って掲示板には出てる。なんだろね」
裏口と思われる引き戸がある。昔ながらのお勝手口だろう。
呼び鈴を探すと、いたって普通のブザー(いわゆるピンポン)と表札があった。
「おれい・・・?」いや『御札』だ。
「おふださん、かな」
ピンポーン
のんきな音の後
「ご用でしょうか」
ハリのある、男性オペラ歌手を思わせる声がした。おそらく主人の住職か寺男だろう。
「あの、噂でこちらのお寺の事を伺いまして・・・人探しをして頂けるとか」
「お待ちください」
なんだか声のトーンが変わったような。
少し待つと、引き戸の曇りガラス向こうに人影が現れた。
ガラガラと開くのに合わせ、僕は深々とお辞儀をした。
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