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会議室を思わせる白い部屋に通された。
業務用を思わせる白い長机、壁には極彩色の絵画が数点。
「主人は奥で商談中だ。お待ちいただこう」
出ていってしまう。
部屋の奥、別のドアの向こうからコショコショと話し声が聞こえてくる。
壁越しの為、内容はよく分からない。
所在無げにキョロキョロすると絵はお釈迦様、いわゆるブッダの誕生から入滅までを描いた物だと分かる。
ああ、やっぱりお寺なんだなあと思う。
だけどなんとなく違和感を僕は感じている。
建物しかりあの執事?しかり。
「!!まっことにありがとうございました!!!」
不意にドア越しでもはっきり聞こえる大声が響き、僕はビクッとした。
「まさかY水産高校の学生さんだとは!成る程ライフセーバーの皆さんも知らん訳だ」
耳を澄まさずともはっきり聞こえる大声。
「新聞広告も見んわけですなあ、学生さんじゃあ。いやいや娘がその男を気に掛けておるんですわ。儂もそろそろ後継者の事をアレせんといかんですからな。いや本当にありがとうございました。謝礼ははずませていただきますわ・・・」
ドアがカチャリと開き、会社役員風の男性が出てきた。
「ほう、先生の所は繁盛ですな。兄ちゃん、ここのお人は本物ですよ。まさしく神掛かっておる。おっとこれは秘密でしたな」
話しかけられた僕が困惑していると、執事氏が音もなく現れ、
「重国様。ありがとう御座いました。お帰りは此方に」出口に案内する。
男性が不快そうに洩らす。
「ふん、いつ見ても気味の悪い奴だ。あんなのを雇ってるようじゃあここもアレだな」
聞こえる様に言う奴があるものか。ぼくはイラッとしたが
「お待たせ致しました」
リンと鈴の音が響いた。
先刻までの不快感がスウッと溶ける。
『主人』が立っていた。
襟元で切り揃えた黒髪
微笑みながらもどこか哀しげな瞳
スッと通った鼻梁と薄い唇
やはり僧職の身なのだろう、淡い水色の袈裟を纏っている。
年の頃は僕より少し上。
背は僕と同じか少し下。
女性にしては高い方だろう。
そう、女性なのだ。
宗派によるらしいが有髪の女僧侶も最近は度々見かけるようになってきている。
「当寺の住職を務めております」
ツとお辞儀をして
「みふだ まゆり、と申します。お見知りおきの程を」
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