もがみがわ

29/36
2830人が本棚に入れています
本棚に追加
/547ページ
奈緒子の見開いた目が、潤み始める。溢れそうな思いを堪えるかのように、ぐっと眉に力を入れ、最後の一文字までを読み終えた。 真実が詰まったこの手紙を、最上先生が読まないなんて選択肢はあり得ない。 奈緒子は迷わず便箋を最上に差し出した。 「読んでください」 「嫌だ……俺には無理だ」 「読んでください!」 強い語気と共に、便箋を最上の胸に押し付ける。 奈緒子は泣きそうになりながら、それでも最上の瞳を真っ直ぐ射抜いた。 「ちゃんと向き合ってください。酒井先生が最期に伝えたかった事を、ご自身の目で確かめてください。大丈夫ですから、絶対大丈夫、私もここに、最上先生の側にいます」 奈緒子の強い思いが伝わったのか、最上は力なく畳にへたりこんだ姿勢のまま、便箋を受け取った。 虚ろな目は、のろのろと文字を追っていく。
/547ページ

最初のコメントを投稿しよう!