みをつくし

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最上は瞼を閉じ、穏やかな口調で話し始める。 「隙さえあれば、女子学生を片っ端から口説き倒すような、薄っぺらい人間なのに。とても品行方正とは言えない、犯人だと思われても仕方のない俺を庇うだなんて、鈴原さんは優しいよ。本当にお人好しだ」 寄り添っている身体の右側に、最上の重みと体温を感じる。 世界に二人だけが残され、息遣いの調子も、鼓動さえも重なっていくような感覚に包まれている。 「鈴原さんが居てくれて良かった」 加々見刑事が最上先生を嘲り謗った時、私はあたかも自分の事のように怒り、反論した。 どうして私は、あれほどまでに最上先生に感情移入したのだろう。 所詮は同じ職場というだけの他人、不必要に関わっても良いことはないと、身に染みて理解していたのに。 傷塗(まみ)れの結末しか知らない人間でも、過去を受け容れることが出来るようになったのだろうか。 古びた本の香りに充ちた部屋で、奈緒子は静かに思い続けた。
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