あらたまの日

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奈緒子は居心地の悪さを隠しきれず、ついパイプ椅子の上で身じろぎをする。 もう嫌、早く帰りたい。作り笑いが引き攣りそうだ。 って言うか、この笑顔さえもどうせこの人たちは見ていないんだし、無駄なものなんでしょう? 近年、大学事務を含めた事務職が若者の転職先として人気なのだと、どこかのウェブサイトで読んだことがある。 そもそも無茶だったんだ。たった数枠の一つを勝ち取ろうと、数多の社会人経験者たちを押し退けようだなんて。 「それでは最後の質問です」 最後と聞こえて、奈緒子は危うく曲がりかけていた背筋をピンと伸ばした。 面接官は片手でボールペンを回しながら、無気力に口を開いた。 「えー、あなたは花粉症ですか?」
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