もがみがわ

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「つーか髪、思い切ったな」 「ああ、そうですね……」 加々見から柄にもなく指摘され、奈緒子は短くなった毛先を指で摘まんだ。 それまでは肩下で揃えていた髪をベリーショートにしたのだ。 首もとが冷えるが、気分を変えるためにと、あの手この手を尽くした結果だった。 髪型だけではない。服装も、ストレートパンツに運動靴という、動きやすさ重視の格好になっていた。 これは、安達が残した負の置き土産の一つだった。 当分は踵のある走りにくい靴を履きたくないし、カッターは使えそうにない。殺人の場面を含むサスペンスなど見たくはなかった。 あのごみ捨て場に行けるようになるまで、どれくらいの時間を要する事だろう。文学部棟から出た資源ごみを捨てる仕事は、まだ出来そうにない。
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