もがみがわ

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死を越えて語り掛ける恩師の声が、最上の耳にそっと寄り添う。 便箋を持つ最上の両手が、震えていた。 「俺……でも俺が、酒井先生を死に追いやって……」 「違います。ここに書いてある事こそが真実です。酒井教授は、最期まで最上先生を愛していた」 最上の目から涙がとめどなく溢れる。 文字が濡れて滲まないよう、奈緒子は最上の手からそっと便箋を取り、脇に置いた。 「最上先生の幸せを願っているというかけがえのない言葉を、先生は信じられませんか?」 空を覆っていた黒い雲が割れ、隙間から澄んだ蒼色が現れ始める。 天の光が障子を抜けて仏間にも降り注ぎ、畳の床に二人の姿の影をつくった。 奈緒子は、最上を正面から抱きしめた。 ――私の腕の中で震える身体は、どんな感情から、涙を流しているのだろう。 少なくとも悪い意味ではない筈だ。
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