もがみがわ

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「時間なので、食堂に行ってきます」 「あ、待って。今日はもう俺も行くよ」 最上は読んでいた古典籍を机にそっと置き、紳士の振舞いで奈緒子から鞄を取り上げた。 最上の手がほんの一瞬だけ、しかし確かに、奈緒子の指先に触れた。 その温かさは手が離れてもなお、奈緒子の肌に残り続ける。 古びた本に囲まれた小さな部屋で、部屋の主の准教授は、心の底から笑った。 「鈴原さん、俺は今、とても幸せかもしれない」
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