あらたまの日

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「そんな大層なものじゃない。『まだ見つけられていないだけで、そこに存在しているもの』を探し出せば良いだけなんだ。結局俺は、古典籍たちの代弁者でしかない」 最上はグラスをそっとテーブルに置いた。 光を抑えた照明の下、白い肌に深く影が出来ている。しかし暗がりの中でもなお、美しさが照り映えていた 「代弁とは言っても、もしも本来の意味とは違った解釈をしてしまったら、って思うと怖くないですか?」 奈緒子が問い掛けると、最上の褐色の目が憂いを帯びた。 「論を世に打ち出すにあたって、大きな責任は伴っている。間違ったことをあたかも正しいかのように論じるのはご法度だ。『万が一』が起こらないよう、俺たちは学問に対して常に誠実でいなければならない。でも実際、適当なことを言っている研究者って、結構多いよ。残念なことにね」
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