あらたまの日

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……ううん、正しいか正しくないは二の次なのかもしれない。 問われているのは『私自身がどう思うか』なのだから。 「この世界に価値のない学問は無い気がしますし、人文科学だってきっとそうです。但し、実社会的には……学生が社会に出て知識を活かすという観点では、文学は役に立たない学問と捉えられがちで、それが文学部不要論に繋がっているのでしょうか……?」 恐る恐る提示された奈緒子の意見に、最上が深く頷いた。 「まさしくそれが今の潮流だ。とは言え、システム構築やテクノロジー、医療、創薬だけが世の中の全てじゃない。文学のように、過去の思想を辿り、再生させることも、人間の内面の変化を理解する一助になる。それは大いに価値のある学問だ。まあ、これは文学贔屓な俺の考えだから、かなり日文擁護の論調に偏ってるけどね」 「それでは、最上先生は、日本文学がもっと厚く保護されるべき学問だとお考えですか?」 「国や社会には、制度的にも金銭的にも、もう少し日文のことを補助してほしいとは思ってるよ。ただ一方で、研究が趣味やお遊びレベルであってはならない。文学を楽しむ姿勢は必要だけど、単なる娯楽であってはいけない。そう、中には、税金を使って研究を続けさせるべきではない人間もいる。真摯な研究態度を持たざる者は、給料を貰ってまで学問をするべきでない。言葉は悪いけど、このような者の存在には苦々しさを感じるよ」
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