片思(かたおもひ)

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奈緒子は鞄を肩にかけて、本棚の通路を出口へと進み始める。 ドアに手を掛けたところで、本棚の壁の向こう側から呼び止められた。 「あ、ちょっと待って」 「はい?」 奈緒子が本の隙間から研究室内を覗くと、最上と目が合う。 彼は緩く微笑みながら、小さく首を傾けた。 「鈴原さんはお昼、何の気分?」 窓から射し込む柔らかな光を背に、古典籍を手にしながら机の側に佇む男は、息を呑むほど麗しい。 それはある意味、不気味なまでに。 奈緒子は内心の動揺を静めようと、暫し呼吸をためてから、答えを導き出した。 「シチューですかね」 *** 触らぬ神に祟りなし。ただし、触ろうとしなくとも、祟りの方からやって来てしまうのではどうしようもない。 それを実感したのは、学食で最上を待っている時だった。 「アンタが最上んとこの職員?」
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