片思(かたおもひ)

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「事務作業が主ですが……ところであなたは?」 「社会学研究室の講師。で、ほんとに事務だけしかしてねぇの?」 昼食はシチューの気分だと最上に宣言したくせに、ざわりと落ち着かない神経にとって、湯気と共に立ち上るシチューの匂いは、今は邪魔でしかない。 「何を仰りたいんでしょうか?」 「最上って学長や文学部長に媚売って、自分に都合の良い人事配置をしてんだよ。アンタだって最上の選り好みの一人なんだろ、どうせ」 「はい?」 「それからほら、文学部図書館の司書、一昨年から新しい子になったんだけど、見たことある?あの子可愛かったろ?オマケに中々良い身体っぽいし、流石、最上が採用しただけあるよな」 胃の底からムカムカと不快感が湧いてくる。奈緒子は机の上で無意識に拳を握る。 男はそれに気付くことなく、独り語りを続けた。
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