第1章

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 そのときは、ただ罪悪感と無力感に包まれたが――今なら分かる。あいつの気持ちが。  帰りの満員電車の中、意識を失いたくなる。  体中にこびりつくような誰かの体温、あまり温かくもなく、彼等とは会話なんてなく、みんなそれぞれ自由にスマホの液晶に夢中である。  俺はイヤホンをさして、音楽に夢中になろうとしていた。彼女が好きだった洋楽バンドが、息苦しくなる。だが、それを聴いてないと彼女とのつながりが消えてしまうようで、胸が苦しくなるのをこらえる。  電車の乗降口の上にある液晶画面には明日の天気予報。最近、雨ばかりが目立つが、明日も雨だ。電車を降りて、駅の外に出る。そして、今日も雨だった。 「………」  右手にはスマホ。音楽を聴きながら、あの都市伝説を調べていた。  現実殺し。  自分を殺してでもこんな現実から抜け出したいとき――代わりに、この現実の方を殺してくれるという。  だが、どれだけ探してもそんなアカウントはなかった。噂によると、そのアカウントに接触すれば現実を殺してくれるらしいが、何回ツイッターやフェイスブックで検索しても、オカルト話が好きそうな奴をフォローしたり、探しても、会話を隅から隅まで目をやっても、ネットの海を探し回っても、現実殺しは見つからなかった。というか、噂してる奴すらいない。  現実殺し。  あの電話のあとに、Sは行方不明になった。  あいつは、現実を殺せたのだろうか。イヤになった現実を、自分を苦しめるだけになった現実を――殺された現実は、多分俺もその中に含まれるだろうが、現実はどうなるのかは分からない。いや、こうやって俺が生きている以上は、本当に殺されたのかは怪しいか。当たり前か。あんな都市伝説、というか、Sから聞いただけの話なんて、本当にあるはずがない。 「………」  数週間前に、恋人が死んだ。  002  これも交通事故によるものだった。  俺の周り、交通事故が流行ってるのかと苦笑したくなる。  そして、死にたくなる。
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