第一章 月が堕ちる森

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 俊樹は、よく働き、よく笑い、気が利くという、 店員にずっといて欲しいという人材であったが、ここにいるのは分身であった。 俊樹の本体は、生贄に選ばれていて、今は市役所の地下で眠っていた。  喫茶店ひまわりは、朝は下に宿泊しているカプセルホテルの客に、 モーニングメニューを出していた。 モーニングメニューといっても、ただの定食であったが、安価なうえに量が多く美味しい。 カプセルホテルの客が終わると、一般の客も食べにくる。 「俊樹、モーニングが終わったら、映画に行こうな」  俊樹は生贄に選ばれているので、残っている時間が少ない。 せめて願いを叶えてやりたいが、最後は映画を観たいとしか言わない。 もう、外の世界を見る、守人様に会う、金を稼ぐなどの、やりたい事は叶ったのだそうだ。
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