第一章 月が堕ちる森

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「八重樫さんの物件ですか?」 「いいや。今度は谷津(やつ)のだよ」  ここで、俺も俊樹の顔が見られない気持ちになる。 この谷津は、俺の幼馴染で親友でもあった。 俊樹と同じ生贄であったが、俺は谷津は助けてしまった。 「谷津さん、こっちに住むのですか……」 「谷津も家族も何も失ってしまったしね。せめて、夢を追い掛けて欲しいよ」  谷津は、ゲームを作っている。 俺は、ゲームの良し悪しは分からないが、谷津の能力は認めていた。  目を逸らし続けているわけにもいかないので、俺が俊樹を見ると、 俊樹は泣きそうな顔をしていた。  自分で生贄の選択をした俊樹であっても、やはり迷うのであろう。
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