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ほら、と威勢よく背中を押され、その勢いに乗っかるようにして、すみませんでした、とようやく口にする。校長、教頭、生徒指導、担任の教師たちにひとりずつ頭を下げたあと、安積は、と振り向くと、彼は何やら毒気を抜かれたみたいな、奇妙に呆けた表情で直臣の方を見つめていた。
「……安積」
名前を呼ぶと、ようやく我に返ったのか、ぎこちなくこちらに視線を戻す。
珍しく動揺しているふうにも見える目の前の男に、ごめん、と勢いよく低頭すると、俺も、とごく小さなつぶやきが耳朶に触れた。
「殴ったりして悪かった。ちょっと家のことで苛々しててあんたに当たった」
「安積……」
ごめん、と続けられて、いや、と口ごもる。こうして改まると、何だか妙に照れくさくて安積の顔がまともに見られなかった。何だ、これ。何の青春ドラマだよ、とせいぜい内心でひとり虚しく突っ込みを入れる。
「──かないませんね、宮原さんには」
「……校長先生」
驚いたように目を丸くする教師陣を手で制して、績原(つぐはら)という五十代前半の校長がふと気さくな笑みを浮かべる。
「あなたのお噂はかねがね聞き及んでおります。宮原酒店の宮原直臣さん──いや、御用聞きのミヤさんとお呼びした方がいいですかね」
「……もしかして、績原さんってのはあのツグじいさんの……」
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