2.過去

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 ほら、と威勢よく背中を押され、その勢いに乗っかるようにして、すみませんでした、とようやく口にする。校長、教頭、生徒指導、担任の教師たちにひとりずつ頭を下げたあと、安積は、と振り向くと、彼は何やら毒気を抜かれたみたいな、奇妙に呆けた表情で直臣の方を見つめていた。 「……安積」  名前を呼ぶと、ようやく我に返ったのか、ぎこちなくこちらに視線を戻す。  珍しく動揺しているふうにも見える目の前の男に、ごめん、と勢いよく低頭すると、俺も、とごく小さなつぶやきが耳朶に触れた。 「殴ったりして悪かった。ちょっと家のことで苛々しててあんたに当たった」 「安積……」  ごめん、と続けられて、いや、と口ごもる。こうして改まると、何だか妙に照れくさくて安積の顔がまともに見られなかった。何だ、これ。何の青春ドラマだよ、とせいぜい内心でひとり虚しく突っ込みを入れる。 「──かないませんね、宮原さんには」 「……校長先生」  驚いたように目を丸くする教師陣を手で制して、績原(つぐはら)という五十代前半の校長がふと気さくな笑みを浮かべる。 「あなたのお噂はかねがね聞き及んでおります。宮原酒店の宮原直臣さん──いや、御用聞きのミヤさんとお呼びした方がいいですかね」 「……もしかして、績原さんってのはあのツグじいさんの……」
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