2.過去

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「ええ、息子です。ずっと東京で教師をしてたんですが、つい何年か前にこちらに戻ってきましてね。今は、こちらの高校でお世話になっています」  どうやら、ツグさんなる老人をあいだに挟んだ知り合いらしく、校長と直臣が嬉しそうに世間話を始める。何やら急速に弛緩した空気に、校長先生、と教頭が場を取りしきるべく咳払いをしてみせた。 「……おっと。すみません。嬉しくてつい話し込んでしまって。──さて、では、宮原さんのおっしゃる通り、今回の件はこれにて一件落着ということで。ただし、私個人としてはともかく、学校側としては、暴力沙汰を起こした生徒をそのまま無罪放免というわけにはいきません。よって、宮原くん、安積くんの処遇についてはこちらから追って連絡いたします。明日は自宅待機ということで各自、連絡を待つように──以上」  抜け目なく、本来のしかつめらしい表情を取り戻した績原が、さらさらとお決まりの口上を述べる。そんな校長にもう一度、深々と頭を下げると、直臣がほら、帰るぞ、と笑顔で周防を促した。 「……ああ、申し訳ないけれど、安積くんはそのままもう少し残ってください。まだ親御さんと連絡が着きませんので」  と、周防たちに続いて席を立とうとした安積を、績原の声が引き留める。 「すみません。一応、生徒を親御さんに引き渡すまでが私どもの仕事なんでね。緊急連絡先の携帯には留守番メッセージを残しておいたのですが」 「あのひとは、……親父は、たぶん来ないと思います」
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