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安積のやけに乾いた返事が聞こえたそのとき、周防はちょうど、校長室から出ようとしているところだった。けれど、背中を向けていても分かるぞっとする響きに思わず振り返ると、先程、本を読んでいたときと同じ無表情な横顔が、この世のいっさいを諦めてしまったかのようにうつむくのが見えた。
──今から思えば、あのときが初めてだったのかも知れない。
周防が初めて、安積のことを怖い、と思ったのは。
彼が抱える深淵に、一緒に覗き込んだらふと、どこまでもともに落ちていってしまいそうな底なし沼の気配を敏感に察知したのかも知れない。
はからずも、直臣がのちに何気なく口にした、その動物の本能で。
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