1.現在

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1.現在

「──いったい何だ、その態度は!」  春まだ浅き三月下旬の早朝、午前六時。冷蔵コーナーの陳列棚にサンドイッチを並べていた宮原周防(すおう)は、レジカウンターから聞こえてきた客のものらしきその怒声に思わずぼやいた。 「……またかよ」  すでに恒例となりつつあるクレーム対応にうんざりしながら、それでも店長という立場上、放置するわけにもいかず、舌打ちとともに重い腰を持ち上げる。  正面に設置されたカウンターの前に、先程の声の主と思しきコートの後ろ姿を認めると、我ながら不自然なくらいの営業スマイルとともに駆け寄った。 「──恐れ入ります、お客さま。うちの従業員が何か失礼をいたしましたか?」 「……なに、あんたがここの店長?」 「はい、宮原と申します」  不機嫌さを隠そうともしない仏頂面で、推定四十代男性が値踏みするように周防を胡乱に見つめる。客層のデータ収集を目的として、レジ打ちの際に客の推定年齢を登録するのはコンビニ業界のデフォルトだが、そのせいでつい、周防の方にもまた、目の前の人物の年齢を無意識に測ってしまう悪癖が付いてしまった。 「あのさあ、おたくいったい従業員に何教えてんのよ。仮にも接客業やってんだから、せめて挨拶くらいはきちんとできるようにしといてよ」  黒の長袖Tシャツにデニム、そこにこの店の制服の上着を重ね着した周防を年下と見てとったのか、客の口調があからさまにぞんざいになる。これもまた、これくらいの年齢層──とりわけ男性によく見られる傾向だった。
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