3.現在

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3.現在

 ──平日のコンビニには、ぽっかりと浮いた真空のような時間帯がある。  これは、飲食店やスーパーなどの他種小売業とも共通する部分かも知れないが、コンビニの場合は朝の通勤時、昼間の正午を挟んだ前後一時間、それから、夕方五時以降のいわゆる帰宅ラッシュ時──それらを除けば、店員がほっとひと息吐ける待機時間とでも呼べるものが確かに存在する。  むろん、そのあいだも客足が皆無というわけではないので、商品の在庫チェックやPOSシステムを使用した売り上げ等のデータ分析、簡単な床掃除などやるべき雑事を手早く済ませながら、ときおり訪れる客を元気な挨拶とともに営業スマイルで出迎える。 「──ミヤ先輩」  だから、そうやっていつものように店内に入ってきた足音が、しかし売り場は巡らずにまっすぐこちらに向かってきたとき、周防はそろそろ売り上げが下がりつつあるホット飲料の在庫を確認しているところだった。 「……芦沢(あしざわ)」 「こんにちは。ご無沙汰してます」  自分を呼ぶなじみのある声に振り向くと、ダッフルコートを腕に掛けた高校の後輩が周防に軽く会釈した。後輩と言っても、周防とは約十年の開きがあるが、自宅が近所同士であることも手伝って以前からずっと親しくしていた。 「おいおい、何だよ。ずいぶん久しぶりだな。俺らのことなんて、もうすっかり忘れちまったのかと思ってた」 「そんなことあるわけないでしょう。ただ、最近、引っ越しの準備でしばらくこちらと東京を行ったり来たりしてた関係で、なかなかここに顔が出せなくて──すみませんでした」
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