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真紘を──彼を、こんなふうに変えたのはただひとり、あの男だけだ。
「……あいつは? 元気にしてる? 井上のやつ」
「はい。今日、ここに寄ってくるって話したらすごく会いたがってました。ミヤ先輩と安積さんにくれぐれもよろしくって言付かってます」
「何だよ、ずいぶん調子がいいな。あいつも」
「でも、本心だと思いますよ。だって、今でもよく話すんです。穂高(ほたか)とふたりで。……みんなで過ごしたあの夏がいちばん楽しかったねって」
穂高、と口にしたときの、隠そうとしても隠し切れない愛おしさにあふれた声音に、ああ、かなわないな、と素直に思う。
彼らはもう、選び取ってしまったのだ。ふたりでともに生きていくことを。
──井上穂高。
一昨年の夏、叔父である柾のペンションに来たときに初めて会った、あの小生意気な少年を思い出す。
頭が良くてスポーツ万能。さらに憎らしいことには、背が高くて、見映えも良くて、おそらく女に不自由したことなんてそれまでの人生において一度もなかったであろう男。
その彼が、何をどうやって真紘と惹かれ合い、恋に落ちたのか、今でも周防は知らない。正直、知りたいとも思わない。
それでも、今の真紘を見ているとつくづく思う。──彼らがあの夏、あの場所で出会ったのは運命だったのだと。運命なんて甘ったるい言葉、本当は口にするのも嫌だけれど。
「……ああ、そうだな。毎日暑くて大変だったけど、でも楽しかった。柾さんがいて、井上がいて、……ああ、そうだ。安積もいたっけ」
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