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「見ていてください。俺たちのこと。どこまでいけるかなんて、そんな先のことは分からないけど、いつか、ミヤ先輩に良かったな、って言ってもらえるように、これからふたりで頑張ってみます」
「……芦沢」
何だか偉そうなこと言ってすみません、と面映ゆそうにつぶやいて、真紘がふたたびうつむく。と、その足もとに、どこからともなく現れた黒くしなやかな身体がするりとすり寄ってきた。
「……カンナ……おまえ、どこから……」
反射的に、バックヤードの裏手にある母家の方向に顔を向ける。食品衛生法には直接は抵触しないものの、動物が店内に入るのはやはり一般的には好ましくないとされている。そのため、ふだん、家を留守にするときは鍵を掛けるようにしているのだが、彼女専用の小窓だけはいつでも出入りできるように開け放してあった。
──それでも、聞き分けの良いカンナが、これまで店内に入ってくることなんてただの一度もなかったのに。
「……カンナ?」
足もとのやわらかな身体をそうっと壊れものでも扱うみたいに抱き上げて、真紘が彼女の黄緑色の瞳を覗き込む。まさか、それに応えたわけでもないのだろうが、カンナが真紘の腕のなかでごくか細い鳴き声を発した。
「……そうか。おまえも芦沢にお別れを言いに来たのか。命の恩人だもんな」
「いえ、そんなこと……」
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